アケビを食べてから、なお秋を感じよう・見よう、秋を食べようなどと思っている。
それで、ある光景が思い浮かんだのだが、具体的に何かというと、なかなか思い出せない。行き着かない。
母はじんべのような薄着の胸から乳房をふたつ見えて
走ってきた。・・・ 母は、はだけた胸にふくらんだものを
抱えており、私たちの所へ息をはあはあついてくると、
乳房を見せつつ、両手で懐の中身をつかみ出した。アケ
ビだった。母が何度もつかみ出すぐらいあった。地べた
にいくつもこぼれた。 (『秋末の一日』)
慈念は襖に描かれた雁の絵を切り取り、寺から姿を消す。
その絵は松葉の陰で、こどもの雁に餌を含ませている母雁
の絵であった。アケビを取り出す母と、母雁が重なって見
えていたのだろう。