りんごと『牛女』


 私の住んでいる所は「りんご」の産地ではないが、車で5分も行けば、赤くたわわに実る風景がある。
 いよいよ盛りで、わざわざ行かなくても、道路を通れば目に入る光景なのだ。

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 りんごの産地は、東北地方に長野県が加わったあたりだろうか。
 いずれも、比較的寒冷な土地か。そこに、春白い花を一杯に咲かせ、秋に真っ赤な実を結ぶことを、豊穣と繁栄、健康と喜びを象徴すると、私たちに呼び掛けたのは、童話作家小川未明ではないだろうか。

 小川未明の童話に『牛女』というのがある。
   ある村に「牛女」と呼ばれる女がいた。女は口もき イメージ 2
  けず、耳も聞こえず、大きな体をしていて、首を垂れ  
  てのっそり歩く。女は息子のために黙々と働くので、
  村人たちもその姿に心をうたれ、仕事を頼んだ。いつ
  か牛女は病気になり、死んでしまう。息子は親のいな
  い寂しさに耐えつつも成長し、街の商家に奉公に出た。
   時が経ち、仕事に成功して故郷に戻る。そして、昔母や自分を助
  けてくれた村人たちに恩返しとしてりんごの木を植えた。りんごの
  木に青い実が鈴生りに実がなったが、虫が付いて落ちてしまう。
   
   息子は昔、無断で商家を飛び出したことや母の供養をしていな
  かった事を思い出し、真心を込めて供養を行った。
   明くる年また虫が発生したが、どこからか蝙蝠が飛んできて、み  
  な虫を食べてしまった。「牛女が蝙蝠になって子の身の上を守って
  いる。」とだれともなく言い始めた。ーりんごはよく実り、息子は
  その地方で幸せに暮らしたという。

         未明は新潟県旧高田市の生まれだ。神職の長男とし
イメージ 3  て生まれたが、親の願いを断って、童話を書き続けた
  ということだ。
   故郷を離れながら片時も両親を忘れる事のなかった
  未明は、『牛女』の親子と同じく、親を思う優しさに
  満ちている。
    
 未明には『野ばら』や『赤いろうそくと人魚』などがあり、絵本にしたら、子どもにも分かりやすい言葉に言い換えられている。
 その点から考えると、『牛女』の設定や言葉は、大人に向けている。