さっきまで降るような勢いだった蝉時雨が、ぱたっと止んだ。
今年は出戻りでも、夏の夕暮れは、どこか物寂しい。
ただ、日中の遅れ馳せの活気と喧噪は、かつてに増して威力がある。
そして後にやって来た静寂は、私に狙いを付けたように入り込んできた。
瞼に赤いものが残っている。昼間見た鳳仙花だ。
悲しいですね 人は誰でも
明日流す涙が 見えません
別れる人と
分かっていれば初めから
寄りつきもしないのに
後ろ姿の あの人に
愛しすぎたわと ぽつり
ほうせんか 空まで届け
中島みゆき「ほうせんか」
中島みゆきのように「別れ」を言うほどの余裕はない。
想いが熟して弾けるほどに、一生懸命やりたい。そのことだけは間違いのない。
草がくれ 種とぶ日なり 鳳仙花 水原秋桜子
〈 密かに、自らの想いが成って、種を飛ばすその日となる 〉
のを願って悩み続けよう。
2回の長雨の後にやって来た夏も、本物だ。
暑さを甘く見ていたらやられるし、入り込めば私のものになる。