燃えるような紅葉は、我が身に及んでいる。
蔦が燃えるほどだ。
髙樹のぶ子に、『蔦燃つたもえ』(1994年)がある。
作家にも、作品にも惹きつけられたことは少なかったが、目の前の蔦紅葉にそそのかされて手に取った。
文庫版の帯は言う。
性愛が人の心を変える男女の物語。 垣根に絡みつく蔦のように
復讐から始まった出会いは、白く透けるような肌を持つ真砂子を
エロスに浸し魔女のように変えていく。鳥清恋愛文学賞長編。
昼ドラの原作との酷評もある。
しかし、『透光の樹』(1999年)があり、私の中では
この作家の価値を高めてきた。
人は性愛に何を求めるか。最初は単純に性的な
欲望、次いで若かりし頃の純真や情熱を取り戻し
たいという欲望、そして自分の存在を相手に埋め
込みたいという欲望 ・・・。この性愛に対する欲望
の深化は、人の持つ性(さが)そのものである。
そうした人の性(さが)を克明に描いている。
この作品を観てから読んだためでもあっただろう。
勿体ぶって言うようだが、『蔦燃』の解説を渡辺淳一が書いている。
男と女を描くことは確かな実感の下に、自分の内面まで
さらけ出す厳しい作業だ。そのわりに軽く見られる傾向に
ある。男女小説を書く作家が少なく、作品自体も希薄なの
は、現実の男女関係が稀薄になっていることに原因があり
そうだ。そんな中でその本流を継ぐ作家、作品と言える。
蔦紅葉は、何とも人の心をかき立てる。