蔦燃ゆ


 燃えるような紅葉は、我が身に及んでいる。
 蔦が燃えるほどだ。

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 髙樹のぶ子に、『蔦燃つたもえ』(1994年)がある。
 作家にも、作品にも惹きつけられたことは少なかったが、目の前の蔦紅葉にそそのかされて手に取った。

 文庫版の帯は言う。
    性愛が人の心を変える男女の物語。 垣根に絡みつく蔦のように
   復讐から始まった出会いは、白く透けるような肌を持つ真砂子を
   エロスに浸し魔女のように変えていく。鳥清恋愛文学賞長編。
 昼ドラの原作との酷評もある。
 
 しかし、『透光の樹』(1999年)があり、私の中では
この作家の価値を高めてきた。            イメージ 2
            人は性愛に何を求めるか。最初は単純に性的な
   欲望、次いで若かりし頃の純真や情熱を取り戻し
   たいという欲望、そして自分の存在を相手に埋め
   込みたいという欲望 ・・・。この性愛に対する欲望
   の深化は、人の持つ性(さが)そのものである。
   そうした人の性(さが)を克明に描いている。                     
 
 この作品を観てから読んだためでもあっただろう。
 秋吉久美子主演(当時50歳)の映画は、2004年根岸吉太郎監督作品だ。同監督による渡辺淳一著『ひとひらの雪』主演から19年が経っていた。

 勿体ぶって言うようだが、『蔦燃』の解説を渡辺淳一が書いている。
        男と女を描くことは確かな実感の下に、自分の内面まで
イメージ 3 さらけ出す厳しい作業だ。そのわりに軽く見られる傾向に
 ある。男女小説を書く作家が少なく、作品自体も希薄なの
 は、現実の男女関係が稀薄になっていることに原因があり
 そうだ。そんな中でその本流を継ぐ作家、作品と言える。

 蔦紅葉は、何とも人の心をかき立てる。